家族信託の活用

族信託は・・・お互いを思う気持ちから始まります。

高齢社会で暮らしていくための対策として。

皆さんご存知のように、現在の日本は”超高齢社会” に突入しております。

医療や技術の飛躍的な進歩により男女とも平均寿命が大幅に伸びたことも大きな要因です。

大変喜ばしい事ですが、その反面、一生を健康に過ごせる方はまだまだ少ないのも事実です。

昨今話題の健康寿命ですが、元気でいられる年齢は平均寿命よりも短い方が殆ど、老後は医療や介護が必要となる方が大半となります。

しかし、ここには大きな財産管理上のリスクが存在しています。

老後の生活費や医療・入院費、介護費用など、長生きは”したい” 、できるだけ ”して欲しい”ものですが、いつまで続くかわからない ”ご長寿のリスク”

もし、ご本人が認知症などにより意思表示ができなくなった場合、ご本人の意思確認ができない状態では預金を払い戻すことも不動産を売買することもできなくなり、生活資金そのものがなくなる可能性もあります。

これが ”資産の凍結リスク” です。

このようにご本人だけではなく、ご家族に対しても大きなリスクとなりえることですが、今までの成年後見制度は本人の財産を維持管理することが目的でご本人やご家族の生活などに対する柔軟性には乏しい制度でした。

これを補い、超高齢社会で今後大きな期待をされるのが、柔軟な対応が可能となる”家族信託” という手法なのです。

族信託の基礎知識

・家族信託とは・・・

・信託法の改正点は・・・

・受託者とは・・・

・受益者とは・・・

・信託契約とは・・・

・遺言信託とは・・・

・自己信託とは・・・

・家族信託の信託財産は・・・

・商事信託とは・・・

・信託のメリットとは・・・

・信託のデメリットとは・・・

・家族信託の機能とは・・・

・後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは・・・

・信託の税務上の考え方は・・・

・生命保険信託とは・・・

・信託の設定について・・・

族信託とは・・・

「信託」の意味は「信託法」を根拠法とする財産管理の手法です。

財産を持っている人(委託者)が遺言や信託契約などで、信頼できる第三者(受託者)に不動産や現金などの財産(信託財産)を託して、委託者の定めた目的(信託目的)にあわせて受託者が特定の人(受益者)のために、その財産管理・処分をおこなう法律関係です。

「家族信託」とはこの信託関係の財産を託す相手(受託者)が家族や親族である信託の形態で、典型的なものに親が子供を信用して財産管理を託すとした形になります。

家族信託を活用することで委任や管理委託、遺言や成年後見制度ではできない相続・事業承継問題への対策や柔軟な財産管理を実現することが可能となるのです。

※信託用語説明

委託者:財産を預ける人。

受託者:財産を預かって管理する人。

受益者:信託財産から経済的利益を受け取る人。

信託財産:不動産や現金など預ける財産。

信託目的:信託して財産管理する目的。受託者はこの目的による管理を行う。

受益権:受益者が信託財産から経済的利益を受ける権利。

信託行為:信託には①契約(信託契約)②遺言(遺言信託)③信託宣言(自己信託)の3つの方法があります。

託法の改正点は・・・

信託法は大正11年に作られた古い法律ですが、平成18年に大きく改正され平成19年9月より施行されました。

改正前は信託銀行などが取り扱う金融商品として資産運用のために活用されていましたが、改正後には一般の人が財産管理の方法として利用しやすくなったのです。

信託法の改正点を分かりやすく説明すると下記の3つになります。

その1:法での規制が過度にならないように、法の趣旨に反したり、利害関係者などに不利益が生じない限り、当事者(委託者・受託者・受益者など)の意思で自由に利用できる制度になりました。

その2:受益者の権利を守るために受託者を監視する信託監督人や受益者に代わって権利を行使する受益者代理人制度が新たに設置されました。

これは福祉型信託(高齢者や障害者の財産管理・生活支援など)にも重要な制度です。

その3:自己信託や信託の併合・分割、後継ぎ遺贈型受益者連続信託など今後増えるであろうニーズに応えるべく新たな信託も形成されました。

託者とは・・・

受託者とは委託者から信託財産を託され、目的に応じて受益者のために財産管理や処分などを行う者です。

受託者には、未成年者・成年被後見人・被保佐人以外の個人・法人がなることができます。   

受託者には、信託目的の達成に必要となる行為を行う権限が信託契約により与えられます。

益者とは・・・

受益者とは、信託財産から経済的利益を受け取る者をいい、委託者により指定されます。

受益者には、委託者自身やそれ以外の個人、法人、現在は生まれていない胎児や子孫など、また複数人でもなることができます。

託契約とは・・・

信託契約とは、信頼できる者に目的をもって財産の管理や処分を任せるための契約のことです。

家族信託契約では、親が老後の財産管理・処分・生活費などの給付や資産承継などを信託目的として、子に財産管理を託すために行います。

但し、委託する親に判断能力がないと契約ができないこともありますので注意が必要です。

また、親の存命中に信託契約した財産については、そのまま承継者を指定できることから遺言の機能を持たせること(遺言代用信託と言います)ができます。

言信託とは・・・

遺言信託とは、遺言書の中で信託を行うことです。

遺言には財産を誰に承継するかなどの指定が一般的だと思いますが、遺言信託には承継した財産をその後どう管理していくかまで決めることができます。

遺言ですのでご本人が存続中は書き換えも可能ですが、死亡するまでは効力は発生しません。

遺言信託のメリットとしては遺言者の死亡時の財産全てを信託財産とできることです。

しかし、存続中の財産管理機能は無いため、全ての財産を包括的に契約することはできませんので信託契約のほうが一般的です。

己信託とは・・・

自己信託とは、委託者自身が受託者となり、受益者のために自身の財産を管理・処分などをする信託のことです。

自己信託は財産の受益者自身に財産が渡るわけではないので、財産管理能力のない認知症や障害者の方を受益者とすることができます。

族信託の信託財産は・・・

信託財産には法律上は特別な制限はありませんが、家族信託は新しく利用されている制度ですので、未だ対応のできない金融機関も存在するのが現状です。

現在は、現金や不動産、未上場株式ほどですが、今後の普及により、家族信託に対応する財産は増えていきます。

事信託とは・・・

商事信託とは、受託者が財産を託されることで報酬などを得る目的で営業(不特定多数の者に対し、継続的・反復的に引き受ける行為)することです。

これを行うには免許が必要となり、信託業法上の免許を持つ金融機関や信託会社などしか行うことができません。

託のメリットとは・・・

成年後見制度ではできなかった財産管理が可能になります。

財産の所有者本人が認知症など判断能力・管理能力をなくした場合、原則後見人が本人に代わり財産管理や法律行為などを行うことになりますが、後見人は家庭裁判所の監督下に置かれ、財産の管理や処分には制約を受けます。

成年後見制度は本人の財産を守ことが目的ですので、家庭裁判所の許可なくして本人の財産を自由に動かすことはできません。

しかし、本人が元気なうちに事前に信託契約を行い、受託者に委託した財産についてはその目的により管理・処分できますので、家庭裁判所からの制約を受けることはありません。

また、後見人を付ける場合でも、既に託した信託財産については後見人が管理する一般財産とは隔離され、制約を受けませんので、今後の財産管理や相続税対策などに柔軟に対応できる代替手段になるでしょう。

将来を見据えて、二次相続以降の承継者を指定することが可能になります。

民法ではなかった受益者連続という機能が信託にはありますので、個人・法人事業主、会社経営者などの事業承継、資産の承継先を将来にわたり指定する承継対策も可能です。

相続による不動産の共有を回避する方法として利用可能です。

相続で不動産を相続人などと共有した場合、その不動産を処分するには共有者全員の同意が必要となります。

共有者と人間関係が良好ならまだ良いのですが、相続をきっかけに険悪な関係になったり、その先の相続により共有者が増えてしまう場合も有ります。

そんな事態を防ぐための方法に信託を活用することもできます。

信託財産は受益者に権利があり、受託者には管理処分する権利があります。

これを利用して、共有者の人間関係が良好なうちに信託契約を締結し、財産管理は受託者が行い、他の者が受益者として受益する権利を準共有する方法があります。

これにより、もし共有者間で問題が発生した場合でも、処分などがスムーズに行なえる可能性があります。

この方法は、事業承継など株式譲渡の場合にも利用し、円満な事業承継を行うことも可能にします。

自由に設定できる受益者への財産給付。

通常、相続や贈与では相続人などが財産を一括で受け取ることになりますが、信託では受益の方法(分割やタイミングなど)を自由に決めることが出来ます。

これにより、後見人が必要となるべき相続人がいる場合(例えば残された配偶者に判断能力がない場合など)でも、信託目的に設定していれば、受益者(例えば配偶者)は受託者から財産の管理・給付(例えば毎月○○万円の給付など)を受ける事もできます。

争族予防のための多様な利用方法。

通常、遺言書作成により家族間での取り決めを残しておくことも多いかと思います。

しかし、相続が発生するまで遺言は撤回や書き換えが可能ですので、被相続人が亡くなる直前に相続人間での争いが発生する場合も有ります。

そこで予防策としての信託契約を設定しておきます。

例えば、資産承継を指定しておき、遺言の代用についての変更・撤回については制限を付け、被相続人の独断では出来ないようにすることで、将来発生する相続での遺産分割を形成することができます。

託のデメリットとは・・・

信託とはあくまでも財産管理や資産承継など対策の一手法ですので、信託を利用することでの税務上のメリットもデメリットもありません。

また、取り扱いには専門的な知識が必要不可欠ですので専門家への相談が大切となります。

例えば、所有する財産に信託契約を複数に分けて設定する場合には損益通算の禁止などの規制もありますので注意が必要となります。

族信託の機能とは・・・

家族信託には相続の発生前後の財産管理と資産承継を行うことができる機能があります。

例えば、父親が子を受託者として財産管理を委託した場合に、認知症などにより判断能力が低下した際の成年後見制度の代用として財産管理を行えます。

受益者である父親が亡くなった場合でも母親を第二受益者として信託契約を設定しておけば、その後は母親のために財産管理を行うことになります。

そして、母親が亡くなった時に信託契約は終了となり、その時点で残った財産を相続人間で分割する旨を信託契約に盛り込んでおくことで、遺言では出来ない二次相続以降の資産承継への対応もすることができます。

継ぎ遺贈型受益者連続信託とは・・・

通常、相続や遺贈する財産は、その財産の所有者本人にしか承継先を決めることができません。

それでは財産所有者の当初からの財産承継に対する”思いや気持ち”を将来へつなぐことはできません。

これを将来に渡り、つなぐ制度が後継ぎ遺贈型受益者連続信託です。

信託は信託受益権という債権に置き換えることができます。

債権は所有権とは違いますので、条件などを自由に設定できることから、委託者は次回以降の受益権者も指定することが可能となります。

但し、受益者連続信託には期間の制限が有り、信託設定から30年後に終了することになりますが、実際は最終的な財産の帰属者まで入れると30年経過後に2回分の受益者を指定できることになります。

託の税務上の考え方は・・・

信託では財産に信託を設定した時から信託の終了時に誰が実質的に財産を保有しているかにより税務は異なります。

例えば信託契約後、委託者存続中に信託が行われた場合や利益を得る受益者が変わった場合、財産権が移動することになりますので贈与に準じ、贈与税が課税されます。

また、受益権を対価と共に移転すれば信託財産の売買と同様として譲渡所得税の課税対象になり、受益者の死亡によって信託財産が移る場合には死亡を原因とした相続税が課税されることになります。

命保険信託とは・・・

生命保険信託とは、信託銀行や信託会社の金融商品で、死亡保険金に信託の仕組みを活用することです。

従来型の生命保険などでは受取人が死亡保険金を一括で受け取るか、毎月受け取る年金型しか選択できませんでした。

もしも受取人に財産管理能力が無ければ、せっかくの保険金も有効には活用されずに無くなってしまう場合も有ります。

そこで、死亡保険金に予め信託の設定をすることにより、毎月設定額を受取人(受益者)に渡すことができます。

例えば、幼い子や障害児に生活保障費、大人になるまでの養育費などとして、もしも生活が困難な方が残された場合の対策として活用できます。

託の設定について・・・

信託とは、相続人間での”争族”を予防することが制度の趣旨でもあります。

遺言は被相続人の意思を反映しますが、時には相続人にとって争い事の種となる場合も有ります。

理想的な信託として、ご本人(委託者)と相続人(受託者や受益者)との話し合いにより納得のいく形を築くことが大切なことになります。

また、財産管理や資産承継を目的としますので、受託者から受益者への連携も大切なことです。

受託者や受益者の身上に問題が起こった場合に対処できるように2次・3次などの対策も視野に入れた信託の構成も考えておきます。

例えば第二・第三の受託者を取り決めておくことや、成年後見制度との併用も視野に入れて任意後見契約も行っておくことも時には必要です。

信託は設定後、財産管理を長期に渡って行っていくことになります。

それ故、見直しや変更など設計を変えたほうが良い場合も出てきますので、信託の設計当初には主幹を定め、変更対処しやすいシンプルな形に作っておくことが理想的だと考えます。

このエントリーをはてなブックマークに追加